2010年1月5日火曜日

国際的な広がりをもつNGO等の団体組織が大きな役割

2.注目を集めるNGOの動き

(1) 国際的なNGOの存在感の高まり

1)多種多様なNGO
 以上見てきたような、グローバリゼーションに対する懸念の内容が世界規模であることを背景に、その懸念を唱える主体も、国や一国内の一部の団体というよりは、むしろ国際的な広がりをもつNGO等の団体組織が大きな役割を果たしている。他方、一口でNGOといっても、その関心分野、活動内容、活動方法等は多種多様である。大規模な反政府デモンストレーションを行うNGOから政府とパートナーシップを組んで問題解決に取り組むNGOまで様々である。中には 1977年にノーベル平和賞を受賞した国際的人権擁護団体であるアムネスティ・インターナショナルや1999年に同じくノーベル平和賞を受賞した国際的医療援助団体である、国境なき医師団(Me′decins Sans Frontie′res)といったNGOもある。民間調査機関が1999年のシアトルWTO閣僚会議に反対の立場を表明したNGOに対して実施したアンケート調査(注43)によると、NGOの主な関心分野についても、環境が圧倒的に多く、続いて貧困、食品安全、農業、労働といった順番になっている(第3─1─2図)。
 また、活動方法については、政府や国際機関等の公的セクターとは比較的に対立的な関係を形成し、場合によっては暴力的な手段にも訴えるNGO(以下、非協調型NGO)が存在する一方で、政府等の公的セクターとのパートナーシップを通じて政策実施に参加することに加えて、場合によっては建設的に公的な政策決定にも影響を与えるNGO(以下、協調型NGO)も存在する。

2)非協調型NGOの活動
 非協調型NGOは、1999年にシアトルで開催されたWTO閣僚会議を皮切りに、国際会議の開催場所で「反グローバリゼーション」を標榜した大規模なデモンストレーションを実施することによって世間の注目を浴びている。その後も、2000年9月のプラハにおけるIMF・世界銀行年次総会や9月のメルボルンにおける世界経済フォーラム主催のアジア太平洋経済サミットといった国際会議に多くの非協調型NGOが集結し、大規模なデモンストレーション等を通じて「反グローバリゼーション」のキャンペーンを展開した。しかしながら、このように統一的なデモンストレーションを通じて「反グローバリゼーション」を主張する非協調型NGOの間でもその主張は環境問題から保護貿易主義にまで広範囲にわたり、必ずしも明確な統一目的を掲げて主張運動を展開しているわけではない。1999年のシアトルにおけるWTO閣僚会議にあわせて実施されたデモンストレーションの主な参加団体とその主な主張内容を見ても、その多種多様性が見てとれる(第3─1─3表)。
 また、1999年のシアトルでは、大規模なデモンストレーションにとどまらず、一部過激派によって暴動にまで発展し、会場周辺や市内が大きな混乱に陥るという事態にまで発展した。そのシアトル暴動の実態の詳細はいまだに解明されていないものの、暴動の主導者は必ずしも「反グローバリゼーション」を主張する非協調型NGOだけではなく、無政府主義者等が「反グローバリゼーション」運動に乗じて暴動を起こしたものとも言われている(注44)。

3)国際機関等の政策決定及び実施に関与を深める協調型NGO
 NGOの中には、特定分野の専門知識や専門技能を社会に供給する役割を果たしているものも少なくない。1992年6月にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)を契機に、NGOは国際会議の場における存在感を高めた。国連、世界銀行等の国際機関は、近年こうした NGOの活動を評価し、一部の政策決定及び実施にも反映させている。
 途上国に対する支援機関として世界最大の世界銀行も、政策の立案及び実施についてNGOを含めた市民社会とのパートナーシップ関係を重要視している。2000年に発表された世界銀行の報告書(注45)によると、NGO等が直接的、間接的に関与した世界銀行のプロジェクトの割合は、1989年度の20%から1999年度(注46)の52%にまで増加した。また、分野別で見た場合、環境分野プロジェクトについては、全体の82%のプロジェクトにNGO等が関与するにまで至っている(第3─1─4図)。その他の主な分野においても、多くのNGO等が関与していることがわかる。
 世界銀行はこうしたNGO等を高く評価する理由として、NGO等は貧困に苦しむ社会生活の現場に近いために多様化する援助ニーズを把握できること、政府とは異なる貴重な視点、ノウハウ、経験等を有していること等を挙げており、世界銀行自身の政策遂行に不可欠なパートナーとして位置付けている。1998年に提唱された「包括的な開発のフレームワーク(Comprehensive Development Framework)」に基づく施策の策定や1999年に作成が決定された「貧困削減戦略ペーパー(Poverty Reduction Strategy Paper)」等の作成に当たっても、NGO等の参加を求めている。世界銀行はこのようにNGO等との対話を通して貧困削減対策プロジェクトに対する市民社会との共通の理解を深めるとともに、プロジェクトの実効性を高めることに努めている。

第3―1―2図 1999年WTOシアトル閣僚会議において新ラウンド反対声明に署名を行ったNGOの関心分野
第3―1―3表 1999年米国シアトルにおける大規模デモンストレーションの主な参加団体とその主張
第3―1―4図 NGO等が関与した世界銀行プロジェクトの割合

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