2010年1月5日火曜日

途上国の理解を高めるためのセミナーを開催

(2) 途上国の能力向上

 国際的な制度構築を進めていく上では、途上国に対して、新たな交渉に参加するインセンティブを与えるとともに、合意されたルールの履行を確保するための体制整備を行うことが重要である。能力向上の役割としては、1)既存ルールの実施能力の向上と、2)新たな分野におけるルール・メイキングを行うに当たり必要な能力の向上の大きく2つの側面があると考えられる。

1)既存ルールの実施能力の向上
 1980年代以降、途上国も含めたルール・メイキングが活発化し、各国の実施能力が多様化してきた。一方で、環境保全への対応に関するもの等、ルール構築のみならず、その後の実効性の確保が重要となる分野が増加している。こうした分野においては、ルール・メイキングの実効性を確保する上でも、参加国の実施能力の向上を行うことが不可欠である。
 既存ルールの実施能力の向上が重要になった背景の1つは、ウルグァイ・ラウンドの結果、途上国のWTO協定遵守義務が飛躍的に拡大したことが挙げられる。例えば、GATSやTRIPS協定、TRIM
協定といった協定を実施するためには、専門的な能力を有するスタッフが必要であるが、途上国の場合には人材不足等の問題を抱えている。また、WTOの紛争解決手続きの利用実態を見ると、途上国の被協議要請件数は協議要請件数よりも多く、その6割以上が米国・EU等先進国によるものとなっている(第4―2―12図 )。途上国にとっては、こうした紛争解決手続きに参加していくことも1つの大きな負担となってきた。また、1999年末に、開発途上国に認められていた貿易投資関連措置の撤廃のための経過期間が満了したものの、延長を要請する国も多い等、既存協定の実施は多くの問題を抱えている。
 多くの途上国は実施の困難なものに関しては、ウルグァイ・ラウンドの結果得られた協定で定められた約束の一部の水準を引き下げるという対応策を主張している。しかし、こうした途上国の主張はウルグァイ・ラウンド交渉の結果の改正を必要とするものが多いため、むしろ、途上国のWTO協定実施能力を高める支援を実施することで、ルールの実効性を確保していくことが重要と考えられる。
 こうした観点から、我が国は、2000年6月のAPEC貿易大臣会合の場において、途上国の支援ニーズに応じた、戦略的なキャパシティ・ビルディング支援を行うべきとの提案を行った。その後、APECにおける9つの途上国・地域(注201)において実施したアンケート調査及び実地調査を通じてニーズを分析し、支援プログラム案を策定した。上記調査の結果、具体的には、1)WTO協定実施のための知識やノウハウの充実、2)国内法制の整備、3)パソコン等の機材等関連インフラの整備、4)交渉技術の取得、5)WTOにおける紛争処理能力の取得、 6)中国、台湾及びヴィエトナムに対するWTO加盟の支援、の6種を支援対象と位置づけた。中でも、人材育成プロジェクトに対する支援ニーズが高いとの調査結果が得られた(注202)。今後、同調査結果を基に、APEC域内先進国や関連国際機関の協力により支援プログラムを実施していく予定である。

2)新分野に関する途上国の理解増進と能力向上
 新分野におけるルール・メイキングについても、1)ウルグァイ・ラウンドの結果著しく負担が増大していること、2)協定実施が必ずしも自国の経済発展とは結びつかないと評価する多くの途上国は、これまで以上の負担を懸念している。こうした途上国に対しては、前述のEUが提案しているプルリ方式で臨むという考え方もある。しかしながら、可能な限り多数の国の間でルール・メイキングを行うことが国際社会にとっての利益であることを勘案すると、これら途上国に対して新たなルールの必要性に関して理解を促す必要がある。さらに、新分野におけるルール・メイキングを円滑に行うためにも、国内制度の整備等の支援が必要である。例えば、途上国の中には競争法制が未整備の国も多いという現状(前掲4―2―4図)にかんがみれば、競争に関するルール・メイキングを行っていく上で基礎となる、国内法制の整備とその円滑な運用を支援することが重要である。
 我が国では、WTO新ラウンドにおける新たなルール・メイキングとして重要なテーマと位置づけられる投資と競争について、途上国が受け入れ易い提案を行うと同時に、途上国の理解を高めるためのセミナーを開催している。APECの枠組みでは、2000年8月にペルーで競争セミナーを、同年11月にはフィリピンで投資・競争セミナーを実施した。また、アジア欧州会合(ASEM:Asia-Europe Meeting)の枠組みでは、2000年9月にオーストリアで投資・競争セミナーを開催した。二国間での取組みとしては、2000年11月にインドネシアで競争法ワークショップを開催した。2001年1月には、マレイシア政府主催でWTO新ラウンド立ち上げに向けた相互理解のための「教育セッション」が開催された。日中韓ASEAN(ASEAN+3)の各国が参加し、アンチ・ダンピング、投資、競争といったテーマについて議論が行われたが、我が国からは各テーマの重要性と日本提案の概要を説明するとともに、各テーマが途上国の利益になることについて、各国の理解が深まるよう努力を行っている。
 以上、WTOに関するキャパシティ・ビルディングを中心に述べてきた。しかしながら、能力向上はWTO協定以外の分野においても同様に重要である。新たな分野におけるルール・メイキングを進めていくのに際して、より多数の参加を求め、かつそのルールの実効性を確保していくため、国際社会のパートナーである途上国の理解の増進と能力の向上を図ることが、ますます重要になっている。

第4―2―12図 WTO紛争解決手続の国別利用実態

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