2010年1月5日火曜日

エコファンドとは、「環境保全に関する取組みが優れた企業や優れた環境技術・商品・サービスを提供する企業の株式に投資する株式投資信託」

(2) 自律的な環境保全への取組みの背景

1)環境対策と企業収益
 これまで、企業にとって環境対策はコスト要因という考え方がなされてきた。しかし、近年は企業側の意識も、環境対策を講じることは収益面でもプラスになる、あるいはマイナスになるとしても社会的責任として積極的に容認されなければならない、という方向に転換しつつある。以下では、環境対策と企業収益の関係を見るため、企業の環境格付けと売上高営業利益率の関係、及びエコファンド組入れ企業の株価指数について、それぞれ検討する。
 まず、環境格付けと売上高営業利益率の相関分析であるが、環境格付けとは、企業によってばらつきの大きい環境情報を格付け機関独自の様式に統一することで、同業種間の相対比較を可能とする指標である。第3―3―6図 は、この環境格付けを用いて、情報関連産業10社の売上高営業利益率との相関関係を比較したものであるが、概して、環境格付けが高い企業ほど利益率も高くなる傾向を示している。このような傾向は、環境への取組みが収益面でもプラスに働いていることを示しているものと考えられる一方で、高収益企業で環境対策に取り組む余裕のある企業が高い環境格付けを得ていると解釈することも可能である。
 そこで、次に、エコファンド組入れ企業の株価指数の推移を見ることによって、環境への取組みが市場でどのような評価を受けているかを見てみよう。エコファンドとは、「環境保全に関する取組みが優れた企業や優れた環境技術・商品・サービスを提供する企業の株式に投資する株式投資信託」であり(注70)、そのルーツは欧米の社会的責任投資(注71)にさかのぼる。日本でも1999年8月の発売開始以来、これまでに9本のエコファンドが売り出され、その純資産総額は約1,500億円(2001年1月5日現在)に達している(注72)。このようなエコファンドのヒットは、企業の環境に関する姿勢に対して強い関心を示す投資家が存在することをうかがわせるものである。エコファンドが投資家に受け入れられた理由には「環境配慮」と「収益性」の2つがあると言われている(注73)。
 それでは、実際に環境配慮と株価指数との間に正の相関は見られるのだろうか。第3―3―7図 は、ダウ・ジョーンズ社とSAMサステナビリティ・グループによる「持続可能性で評価した世界の企業株価指数(DJSGI)」とダウ・ジョーンズ社の「世界株価指数(DJGI)」を比較したものである。この図から明らかなように、一貫してDJSGIがDJGIを上回っている。環境配慮がこうした企業の株価上昇につながったのは、1)省資源・省エネルギー等の環境保全行動がコスト削減につながった、2)環境問題に起因する将来のリスクを事前に回避しているために追加的なコストが発生しない、といったことが評価されたためと考えられる。

2)リスク回避の重要性
 企業にとって環境対策を講じることは、将来発生するかもしれない環境リスクを回避する上でも大切である。環境投資は短期的にはコストアップをもたらすが、いったん汚染された環境の修復コストや住民の健康被害に対する補償、訴訟費用等の総額は莫大なものになる。例えば、1989年にエクソン社のタンカー「バルディーズ号」がアラスカ沖で座礁し、大量の原油が流出した事故では、エクソン社が2,500万ドルの罰金のほか、刑事賠償(生態系修復費用)として 1億ドル、民事では10年間で9億ドルを支払うことに同意している(注74)。この事故をきっかけに、その後のタンカー造船に際しては、油濁リスクを回避するために船体を二重化する動きが進められている。
 前述したように、環境会計においては、汚染や訴訟等のリスクを回避したと考えられる経済効果は、環境保全対策に伴う偶発的な効果としてみなし経済効果に分類されている。例えば、IBMでは、1977年の米国工場での化学薬品漏洩事故をきっかけに、その後3年間で地下タンクをすべて地上に移設し、それぞれのタンクの外周に防液堤と呼ばれるプールのような容器を作った。同社では、この防液堤によりタンク漏れ事故を防止し、土壌汚染・水質汚染を回避したという根拠に基づき、流出改善費の回避と法規制準拠費の回避を算出している(注75)。こうした回避効果はあくまでも仮定に基づく数字であるため、その精度については検討を必要とする。しかしながら、近年、グリーン・コンシューマー(後述) やグリーン・インベスター(環境配慮型企業を選好する投資家)が増加していることを考えれば、企業にとって「環境配慮」は市場から淘汰されないためにも避けて通れないものとなっている。

3)高まる消費者、ユーザー企業等の意識
 消費者の環境意識が高まる中で、その消費行動にも変化が生じている。すなわち、商品を購入する際に、それが環境に配慮して作られたものであるかどうかを考慮する「グリーン・コンシューマー」と呼ばれる人々が着実に増加していることである。経済企画庁の調査によれば、商品を購入する際に環境への負荷を考慮する消費者の割合は、家庭電化製品(エアコン)で88.3%、自動車で96.3%、住宅では96.8%となっている(第3―3―8図 )。省エネ等の環境に配慮した商品を購入するために許容できる価格差については、家庭電化製品(10万円前後)の場合では「10%以内」が80.4%、「20%以内」でも38.3%の人が「許容できる」と回答している。家電製品に比べて高額である自動車や住宅では許容できる価格差は小さくなるものの、「5%以内であれば許容できる」とする割合が自動車で24.0%、住宅で27.9%となった。このことは、少々の価格負担であれば環境に配慮した製品を購入する層が存在することを示していると考えられる。
 一方、国や地方公共団体、企業等においても部品や原材料等の調達、事務用品の購入に際して、一定水準の環境配慮を要求する動き(グリーン調達、グリーン購入)が広がっている。国や地方公共団体等における環境物品調達(グリーン購入)等については、2000年5月に「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」が公布され、2001年4月から全面施行されている(注76)。また、環境負荷が少ない商品やサービスの優先的購入促進を目的とした、企業・行政・消費者の緩やかなネットワークに、1996年2月に発足した「グリーン購入ネットワーク」(GPN)がある。発足当初40社に過ぎなかった会員企業数は2000年12月には1,729社に増加しており、グリーン購入に対する企業の意識が着実に高まっていることを示している(第3―3―9図 )。GPNでは活動の一環として14品目の購入ガイドラインを策定する(注77)とともに、それぞれの分野について各メーカーの製品の環境データベースを作成・公表し、消費者の参考となる情報を提供している。これらのガイドラインの策定に当たっては、製品の製造・利用・廃棄全般にわたって様々な環境影響評価を行うライフ・サイクル・アセスメント(LCA)の観点を織り込むよう努めることとされている。現時点ではグリーン・コンシューマーと呼ばれる消費者は依然として少数派に過ぎないが、GPNの会員企業数の増加に見られるように、企業サイドでは消費者の環境問題に対する関心の高まりを先取りする形で対応が進んでいる。

4)増大する影響力:NGOによる企業活動監視
 NGOによる企業活動の監視も、企業の環境対策を促す一因となっている。例えば、1995年にグリーンピースによる直接行動や不買運動のために、シェルがブレント・スパーと呼ばれる石油貯蔵施設の深海投棄を断念した事例(注78)(コラム6参照)や、自然資源防衛委員会(NRDC)とメキシコの環境団体等がサンイグナシオ潟の生態系破壊を理由に三菱商事グループに対して不買運動を実施し(注79)、2000年3月にメキシコ政府が新規塩田開発を中止した事例(注80)(コラム7参照)が挙げられる。最近では、ホームページ上に多国籍企業が海外進出先の環境等に影響を及ぼしている事例を掲載している団体もある(注81)。これらNGOの活動が活発化した背景の1つとして、第1節で言及したように、インターネット等の情報通信技術の発達により、NGO等の世界的なネットワーク化及び情報発信が容易になったことが挙げられる。このように、ネットワークを介して情報発信力を強化したNGO等の市民社会による監視機能の高まりは、企業に対して環境保全を促す力となっている。

第3―3―6図 環境格付けと企業業績
第3―3―7図 環境優良企業の株価の推移
第3―3―8図 省エネルギー等の環境配慮を重視する消費者の割合
第3―3―9図 グリーン購入ネットワーク会員企業数の推移

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