2010年1月5日火曜日

より効率的な資本市場を創出する

3.対外経済政策の活用による国内市場環境の整備及び市場との対話の重要性

(1) 国際的な投資関連ルールとその変容

 世界的な直接投資の拡大を背景として、多国間・地域・二国間における投資関連ルールの締結が活発化している。今後海外からの資本や先進的な技術・人材を確実に流入させるためには、国内制度改革の実施に加えて、対外経済政策を補完的に活用しながら我が国の事業環境の改善を行い、海外の経済主体に対してアピールしていく必要がある。
 既に締結されている多国間の投資関連ルールとしては、WTOにおける貿易関連投資措置協定(TRIM協定:Agreement on Trade-Related Investment Measures)、GATS等が挙げられる(注145)。TRIM協定においてはモノの貿易に関連する投資措置に関する規定がなされており、例えば現地調達要求(注146)や為替規制といったパフォーマンス要求が禁止されている。一方のGATSにおいてはサービス分野における投資(業務上の拠点を通じたサービス提供)に関する最恵国待遇、透明性の確保等が求められているほか、約束表に記載される条件及び制限に基づき内国民待遇や市場アクセスを与えることが定められている(注147)。これまで我が国は、GATSの枠組みの中で積極的にサービス産業の自由化を約束・履行してきており、特に通信や金融等の分野においては、こうした約束に基づく自由化を行った後に外資系企業の参入が大幅に拡大している(注148)。
 一方、多国間の投資ルール策定の動きと並行して、二国間投資協定(BIT:Bilateral Investment Treaty)、あるいは投資関連ルールを含む地域・二国間のFTAを独自に締結する動きが国際的に加速しており(注149)、これまで我が国も7件の二国間投資協定を締結及び発効している(第4―1―18表 )。こうした既存の二国間投資協定は、対日直接投資を促進するためというよりも、むしろ我が国の企業による対外直接投資を保護することに主眼が置かれていた(注150)。このような中、現在交渉が行われている日韓投資協定においては、投資の許可に関する内国民待遇を協定に盛り込むことにつき検討がなされており、両国間における投資の自由化にも資する内容が目指されている。
 また、既に我が国においては多くの事業分野で新規参入や法人形態に関する内国民待遇が確保されているという制度面の実態を踏まえた場合、我が国市場の競争をより一層促進するためには既存の国内法制度及びWTO協定に加えて、投資家の事業活動の円滑化に資するような国内外の制度のハーモナイゼーションも検討する必要があろう。例えば対内直接投資を通じて海外の先進的な経営ノウハウや技術を最大限吸収するためには、そうしたノウハウを持つ先進的な経営者や技術者が我が国により円滑に入国・滞在できるよう取り組む必要がある。そのためには、専門サービス提供者や技術者の資格や免許に関する相互承認に関するルール、専門知識・技術を持つサービス提供者、技術者に関する入国要件の見直し等を検討していくことも必要となろう。例えば最近締結されたEU-メキシコ間の FTA(2000年3月調印)、ニュー・ジーランドとシンガポール間の経済連携緊密化協定(2000年11月調印)の中では、サービス提供者の資格の相互承認を積極的に促進していくことが規定されている。また、我が国が現在シンガポールとの間で交渉を進めている新時代経済連携協定(EPA)についても、交渉の前に実施された両国の共同検討会合報告書において、両国間の専門職業従事者の移動を容易にし、両国の技能労働者の雇用及び訓練を容易にすることの重要性について指摘がなされている(注151)。
 同時に、外国人投資家による我が国への投資の円滑化を図るためには、より効率的な資本市場を創出することが重要であると考えられる。例えば、前掲の日本とシンガポールとの間の協定に関する共同検討会合においては、金融サービスにおける二国間の協力を強化していくべきとの提案がなされ、金融サービスの規制問題、資本市場の連携、市場インフラの改善、地域債券市場の発展等について議論がなされた(注152)。今後、我が国の資本市場のあり方を見直し、市場インフラを整備していくことは、投資先としての日本の魅力を向上させる上でも有効であろう。
 このほか、今日のFTAの中には、基準・認証制度、電子商取引、競争政策、知的財産権等に関する規定も含まれているケースも見られるが、二国間や地域における取組みを通じてこうした制度を整備していくことも、対内直接投資を促進する上で有効であろう(注153)。

第4―1―18表 我が国との二国間投資協定締結状況

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