2010年1月5日火曜日

市場経済を基本とする経済システムを完全に代替し得る制度は存在しない

第4章 21世紀における対外経済政策の挑戦


 前章で検討を行った世界経済の成長に伴うひずみの問題は、市場経済を基本とした現代の世界経済システムに対する1つの警鐘と言える。そこで指摘されている様々な問題については、その因果関係を整理した上で、真摯な対応を行わなければ市場経済システム自体の信頼性を喪失させる危険性を孕んでいることを十分に認識する必要がある。しかしながら、少なくとも現時点では、市場経済を基本とする経済システムを完全に代替し得る制度は存在しない。したがって、今後とも我々は市場経済システムを前提とした上で、それによる弊害を極力除去しながら、適切な経済政策を運営していく必要がある。
 一方、20世紀後半が、我が国の復興や高度経済成長とともに生じた様々な対外的な摩擦への対応に追われた時代であったとすれば、21世紀は、急速に進むグローバリゼーションに対応した国内外の制度を積極的に構築すべき時代と言える。ともすると、かつては国内事業環境の整備は国内経済政策、海外事業環境の整備は対外経済政策により解決するものと考えられていた。しかしながら、国内問題が国際問題として顕在化し、国際問題が国内に波及する今日においては、常に国内外を視野に入れた「内外一体の経済政策」を実施していくことが求められている。内外一体の経済政策とは、我が国の国内経済政策及び対外経済政策を有機的に連携させることにより、国内外で調和のとれた市場環境を整備し、我が国経済の活性化を図ることである。つまり、我が国経済の活性化を図る際には、従来実施されてきたマクロ経済政策協調に見られる「国家間の政策の調和」の更なる促進に加えて、我が国が実施する国内政策と対外政策との間の相乗効果を最大化することが重要な課題となりつつある。
 このような目的を達成するために、対外経済政策については、従来どおり多国間(マルチ)の枠組みを主軸に据えながらも、地域、二国間(バイ)等、様々なフォーラムを重層的に活用するという方向へ既に方針の転換を行っている(注104)。しかしながら、多角的貿易自由化の実現こそが、我が国が自由貿易の恩恵を最大限享受するために必要な条件であるということは今後も変わらないであろう。その到達点に向けたプロセスとして、各フォーラムを重層的かつ柔軟に活用するということがこの政策転換の本旨である。
 本章では、まず第1節において、日本経済の現状と課題を整理した上で、内外一体の経済政策の一例として、国内の事業環境の魅力を向上させるための各種政策課題について検討を行う。次に第2節では、グローバリゼーションが進展し、内外の市場が一体化する中で、国際的な制度の構築及び調和を行う際の主要な課題と留意事項について考察する。最後に、第3節においては、我が国の対外経済政策を取り巻く環境の変化を整理し、多国間、地域、二国間という各種フォーラムを重層的に活用することの必然性について考察を行った上で、各フォーラムにおける我が国の取組みの現状と今後の課題について指摘を行い締めくくることとしたい。

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