2010年1月6日水曜日

戦略的なFTA締結

(2) 諸外国における戦略的なFTA締結の動き

 1990年代後半以降、二国間及び地域的なFTA締結の動きが世界的に活発化している。特に1999年以降締結されているFTAについては、1)締結国間の地理的な近接性の変化、2)協定の内容の深化、という2点において、従来型の「地域統合」とは性質を異にしており、こうした動きに対しては今後我が国も積極的かつ戦略的に対応していく必要がある。

1)締結国間の地理的な近接性の変化
 1957年のEEC設立(注219)以降、100件以上のFTAがWTOに通報されているが、同じ地域内の国同士によりFTAが締結されたケース(地域内FTA)が全体の約95%(107件) を占めていたのに対して、別の地域に属する国同士により締結されたケース(地域横断的FTA)は全体のわずか5.3%(6件)にとどまっていた(注220)(第4―3―1表 )。しかしながら1999年以降、異なる地域に属する国同士のFTA締結(米・ジョルダン、EU・メキシコ等)、及び異なる地域に属するFTA同士の更なる統合(EU・MERCOSUR)をめぐる動きが活発化している。
 未だWTOには通報されていないものの、1999年以降少なくとも12件の「地域横断的FTA」が1)調印、2)交渉開始、3)もしくは交渉開始合意に至っている(第4―3―2表 )。こうしたFTAは、地理的な近接性とは無関係に重要な貿易投資相手国と迅速にFTAを締結し、積極的に海外の資本・経営者・技術者を自国に誘致することで、国内経済を活性化させることを意図する地域貿易投資拠点を目指したFTAととらえることができる。例えば現在のところFTA締結に積極的な国としては、アジア諸国の中ではシンガポール、中米ではメキシコ、南米ではチリが挙げられるが、いずれの国も現在、米国、日本、EU、カナダ等経済規模の大きな国とのFTA締結に意欲的に取り組んでいる(第4―3―3表 )(注221)。また、従来EUは東欧諸国あるいは地中海沿岸諸国等、地理的に近接している国との経済関係を強化してきたが、EU・メキシコFTAの締結やチリと
MERCOSURとの間のFTA交渉開始に見られるように、最近は必ずしも地理的に近接していない国・地域とのFTA締結についても意欲的に取り組んでいる(第4―3―3表 )。
 近年のFTA締結の動きを「20世紀初頭におけるブロック経済化の再来」としてとらえる見方も存在する一方で、こうした地域横断的FTA締結の動きは、21世紀においては地域の枠を越えたFTA締結が更に進んでいく可能性が高いことを示唆するものである。

2)協定の内容の深化
 今日のFTAに見られる第二の特徴は、協定で扱われる分野が伝統的な域内関税・非関税障壁の撤廃のみならず、投資、競争、人の移動の円滑化、電子商取引、環境、労働関連制度の調和等、WTOにおいても十分にルール・メイキングが進んでいない新分野にまで拡大されていることである。すなわち、国内市場の競争環境整備及び二国間の貿易投資促進をより確実に実現するために、モノの分野の自由化に加えてカネ、ヒト、サービス、情報の移動を更に活発化させる上で必要な、各種項目が協定の中に柔軟に盛り込まれている(第4―3―4表 )。
 新分野のルールを含むFTAの締結がこのように活発化している背景としては、新分野の多国間ルールを自国主導で策定する上で、まずは利害関係の一致する二国間で機動的にルールを策定・普及することの有効性が認識され始めたことが挙げられる。こうしたFTAは、通商ルールのデファクト・スタンダード確立を目指したFTAととらえることができる。つまり新分野のルールについて、まずは二国間で構築していくことで、1)当該分野の制度構築に関するノウハウや経験を蓄積する、2)蓄積されたノウハウや経験、あるいは成功事例を多角的交渉の場にフィードバックし、合意形成の材料とする、3)最終的には自国発の多角的通商ルールを主導的に構築する、といった効果を企図している。例えば、基本電気通信分野の規制のあり方が定められたWTO/GATSの「参照文書」では、NAFTAにおける電気通信ルール(注222)と同様の規定(注223)がなされている。また米国・ジョルダンのFTAの中では、FTAとしては初めて環境、労働関連の規定が協定本文に盛り込まれているが、米国は今後こうした新分野のルールをチリ、シンガポールとのFTAにおいても適用していく旨を表明している(注224))。

第4―3―1表 WTOに通報されたFTAの件数
第4―3―2表 地域横断的FTA締結の動向
第4―3―3表 FTA締結に積極的な国の動向
第4―3―4表 各FTAに含まれている項目の比較

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