2010年1月5日火曜日

国際的制度ハーモナイゼーションの動き

4.食品安全に関する問題

(1) 食品安全基準をめぐる問題 

1)農水産物及び食品貿易の増大と国際的制度ハーモナイゼーションの動き
 技術や安全等に関する基準及び外国産品がその基準に適合しているかについての判断に関わる基準・認証制度は、各国において、品質の確保、安全性の確保、環境保全等の目的のために設定、運用されている。しかし、各国の基準・認証制度に差異が見られる場合、輸出側が各国の規制に個別に適応する必要がある。そのため、基準・認証制度が国際的に整合化されている場合と比べて製造・販売に余分なコストを要することになることから、消費者が貿易による潜在的利益を逸している可能性がある。また、基準・認証制度は本来貿易制限を目的としたものではないが、外国産品がその基準を満たし、適合性の判定を受けることが国内産品と比して困難な場合、事実上、市場参入の障壁となることがある。このような中、実際に世界的に産品の貿易が増加することに伴い、貿易自由化の利益を最大限に享受するとともに、不必要な貿易障壁を取り除くために国際的な制度ハーモナイゼーションの動きが活発化している。
 食品分野における検疫制度に関しても、農水産物及び加工食品の国際貿易の増加に伴い(第3─2─13図)、不必要な貿易障壁を取り除くことを目的に、国際機関であるFAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)において統一規格策定が進められてきた。WTOの場においても、衛生植物検疫措置が偽装された貿易制限となることを防止し、国際基準に基づいて各国の衛生植物検疫措置の調和を図ることを目的とした「衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定:Agreement on the Application of Sanitary and Phytosanitary Measures)」が合意されている。

2)国際的ハーモナイゼーションと各国国内制度
 SPS協定は加盟国の衛生植物検疫措置に関して、「恣意的もしくは不当な差別の手段となるような態様でまたは国際貿易に対する偽装した制限となるような態様で適用しないこと」を確保することを目的としている。具体的には、加盟国はコーデックス委員会等の国際的な基準、指針または勧告に基づいて措置を実施するべきとされており、また、同時に危険性評価に基づき、国際基準よりも高度な基準を採用すること等が認められている。また、バイオテクノロジーの発展とともに遺伝子組換え食品等の安全性の問題が指摘される中、各国の衛生植物検疫措置の本来の目的である人等の衛生状態の向上は、依然として重要な政策目標であり、貿易自由化とは独立して存在する。したがって食品安全については、たとえ国際基準に合致しなくても高度な基準を採用すべきであり、各国は主権に基づき、その権限を確保する権利があるとの考えも成立しよう。つまり、衛生植物検疫措置の貿易に対する悪影響を最小限にするために、衛生植物検疫措置の国際的調和を図るという目的と、各国における人等の衛生状態の向上との目的とを両立させる上で政策上の困難が生じる。
 WTOの場でこの点について争われた事例として、EUのホルモン牛肉に関する措置をめぐる案件がある。これはEUが肥育ホルモンの使用を禁じ、1989 年から肥育ホルモン剤を使用した牛肉の輸入を禁止していたことに対して、米国がSPS協定違反でWTOに提訴したものである。パネルの判断としては、肥育ホルモン牛肉の輸入禁止は国際的な基準に基づいていないとした上で、措置が科学的危険性の評価に基づいておらず、また、国際貿易に対する差別または偽装した制限をもたらすものであるとしてSPS協定違反と認定した。これに対して、上級委員会の判断としては、EUの措置が十分な科学的危険性の評価に基づいていない点ではパネルの判断を支持したが、国際貿易に対する差別または偽装した制限をもたらすものとはなっていないとした点でパネルとは異なる見解を示した。また、SPS協定においては、法の調和が将来実現されるべき目的と位置づけられており、主権を制限する解釈には慎重であるべきことも指摘した(注55)。

3)今後の方向性
 このように、グローバリゼーションが進展し、貿易が拡大するに伴い、各国の異なる社会制度の間にある差異が緊張を生む場合がある。特に貿易自由化といった経済政策の目標を追求するに際しては、これとは別個に存在する人命の安全確保といった重要な社会政策等の目標との間で調整が困難な場合が生じることに十分な配慮が求められる。このような国内制度の調和に係る国際規律と各国主権との調和は、今後更にグローバリゼーションが進展していく時代にあって、ますます重要性を増す課題である。

第3―2―13図 世界の農水産品輸出額の推移

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