2010年1月5日火曜日

世界でも有数の大企業に対する市民の勝利

コラム7

【メキシコ塩田事件】

 メキシコのバハ・カリフォルニア半島にあるサンイグナシオ潟は、カリフォルニア・グレー鯨が出産及び子育てをする場所の1つとして知られていた。メキシコ政府と三菱商事の合弁企業である塩輸出公社(ESSA)は、1976年からゲレロ・ネグロで塩田事業を営んでいたが、1991年に設備拡張と新規塩田開発を計画していることが報じられた。
 1995年にメキシコの環境保護団体「グループ・オブ・100」がESSAの開発計画に抗議、その後、米国の環境NGO「自然資源防衛委員会 (NRDC)」と「国際動物福祉基金(IFAW)」が「高濃度の塩水が生態系に悪影響を与える」と主張し、1999年9月末から三菱グループに対する不買運動を開始した。これらの団体は、新聞やテレビでキャンペーン広告を流したり、インターネット上にサンイグナシオ潟の生態系の保護を訴える内容のホームページを立ち上げる等の抗議活動を展開した。
 サンイグナシオ潟は1993年に国連教育科学文化機関(UNESCO)から世界遺産に指定されていたが、塩田開発が予定されていた場所は緩衝ゾーン(産業活動が一切禁止されている生物保護区域・中核ゾーンの周辺)にあり、中核ゾーンの生態系に影響を与えないことが事業活動を行う条件となっている。こうしたことから、ESSAは1997年9月に地元のバハ・カリフォルニア・スル州立大学や米国のスクリップス海洋研究所等に環境影響評価(EIA)を依頼していた。1999年12月にUNESCO世界遺産委員会は「科学的データによれば、鯨の生育状況は危機的なものではなく、その数は増えている」とする一方で、世界遺産地域の景観が大きく変わることへの懸念を表明した。
 2000年3月にメキシコのセディージョ大統領(当時)は計画中止を発表し、その理由として世界遺産地域の生態系と景観の保全を挙げた。NGO側はこの開発中止決定を「世界でも有数の大企業に対する市民の勝利」(NRDC)と位置づけ、新聞広告や電子メールの活用が世界中から反対運動に参加した人々の結束力を高めたとコメントしている。その意味で、本件は、NGO活動のネットワーク化を示す好例と言えるだろう。

《参考資料》
各種新聞報道
ESSAホームページ  http://www.mitsubishi.co.jp/enviroment/essa.html
"Whale Nursery Saved: Coalition stops Mitsubishi from building a saltworks at Laguna San Ignacio", http://www.nrdc.org/wildlife/marine/nbaja.asp
"The whale sanctuary of El Viscaino in Mexico inscribed on the UNESCO World Heritage list since 1993", http://www.unesco.org/whc/news/viscaino081299.htm
"El Viscaino whale sanctuary: President of Mexico announces decision to halt saltworks project at World Heritage site", http://www.unesco.org/whc/news/viscaino070300.htm

0 件のコメント:

コメントを投稿