2010年1月6日水曜日

国内経済の閉塞状態からの早期脱却

第3節 対外経済政策の戦略的な展開に向けて


要 旨

1.我が国の対外経済政策を取り巻く環境の変化
 これまで我が国が享受してきた、1)一貫した原理原則に基づき、加盟国に広く適用される貿易ルール、2)中立的な紛争処理手続きといったWTOの機能は、いかなる自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)や経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)をもってしても代替することはできない。したがって、WTOは今後も我が国にとって最も重要なフォーラムである。一方、加盟国数の増加等によりWTOの機動性が低下傾向にある中で、EU、シンガポール、メキシコ、チリ等の諸外国による戦略的なFTAの締結が近年増加している。今日の FTAの特徴としては、1)地域における貿易投資拠点の獲得を目指した非近接国間の協定の増加、2)通商ルールのデファクト・スタンダード獲得を目指した協定の締結等が挙げられる。
2.地域統合の理論面・実証面からの分析
 FTAを含む地域統合の経済効果の理論的な枠組みは、1)関税の引下げが資源配分の効率性に影響を与える静態的効果と、2)生産性上昇や資本蓄積を通じて経済成長に影響を与える動態的効果の2つに分類される。また、FTAが多角的な貿易自由化を促進するのか、阻害するのかという観点から分析を行うツールとして、動学的時間経路の理論も発展しつつある。今後我が国は、こうした理論も踏まえつつ、多角的自由化を補完し得るEPA等の締結のあり方を模索していくことが必要である。
 なお、実証分析によれば、NAFTA締結後、1)域内国のGDPの堅調な成長、2)域内貿易比率の上昇、3)域内への直接投資の増加、4)域内国の失業率の趨勢的減少等が確認されている。EUについては、1)域内GDP成長率のトレンドが1992年市場統合後1.1%増加、2)域内への直接投資の増加、 3)域内競争の促進(価格差の減少)等が確認されている。
3.21世紀における対外経済政策の挑戦
 上記1.の環境変化を踏まえ、第1節で述べた国内経済の閉塞状態からの早期脱却を図るためには、我が国は引き続きWTOを主軸に据えながらも、対外経済政策を積極的に推進していく必要がある。一方、1)迅速なルール策定、2)多角的自由化のモメンタム維持、3)国際的な制度構築ノウハウの蓄積、 4)FTA/EPAを締結しないことによる不利益の回避、5)国内構造改革等の観点から、対外経済政策を推進する際には、多様なフォーラムを重層的に活用していく必要がある。
 対外経済政策に関する当面の政策課題としては、1)WTOの信頼性向上と次期ラウンドの立上げ、2)APEC及びASEAN+3等の地域的なフォーラムの活用、3)日シンガポール新時代経済連携協定等の二国間における取組み等が挙げられる。なお、こうした重層的な対外経済政策の効果を最大化するためには、1)WTO協定との整合性を確保しながら、2)加速化する諸外国の交渉スピードに劣らぬ迅速さで、3)各交渉フォーラムの間で有機的な連携を図る、といった条件を満たしていく必要がある。こうした条件を同時に満たすことは容易ではないが、我が国経済を早期に活性化させるためにも、果敢に挑戦していく必要がある。

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