2010年1月5日火曜日

世界に通用する国内企業を最低でも50社育成

コラム9

【シンガポールにおける内外一体の経済政策】

 シンガポール政府は、知識集約型産業構造への転換及び多国籍企業の地域統括会社の誘致を通じたアジアのハブ化を目指した国家の基本戦略として、「Industry 21(I21)」を1998年6月に発表した。産業育成に高い優先性が与えられている分野としては、エレクトロニクス、石油化学・化学、エンジニアリング、ライフ・サイエンス、物流、情報通信・メディア、教育サービス、ヘルスケアサービスが挙げられており、当該分野における競争力の強化と多国籍企業の誘致が目指されている。同時に多国籍企業の誘致を通じてシンガポール独自の製品・サービスを開発する能力を有する国内企業の育成も目指されており、同国政府は2010年までに世界に通用する国内企業を最低でも50社育成することを1つの目標として掲げている。育成の対象企業としては、外資系の地域統括会社にとって重要なサービス(マーケティング、サプライ・チェーン・マネジメント、プロダクト・デザイン、流通分野等)を提供する企業や、オリジナルな製品・技術を開発し得る企業が挙げられており、政府による資金援助や税インセンティブ等の各種育成措置が実施されている。
 こうした戦略を実現するために、シンガポールは通信分野を中心とするビジネスインフラの整備、規制緩和、労働者の能力開発(注154)、諸外国との自由貿易協定の締結等、内外一体の経済政策を同時並行的に行うことにより、外資系企業にとっても魅力的な市場作りを行うことの意欲と方向性を一貫してマーケットに対してアピールしてきた。こうした努力は近年着実に開花し始めており、シンガポール経済開発庁の発表によると(注155)、同庁の誘致施策により1999年には27の外資系企業(注156)が地域統括会社をシンガポールに設置し、新たに1,800人の雇用を産み出したと推計している。また、Fortune誌はアジアで最もビジネス環境が整っている国として、シンガポールを2年連続第1位にランクしている(注157)。同誌はシンガポールにおけるビジネスコストは決して安くはないとしながらも、そうしたコストを補って余りあるメリット(特にビジネスインフラ・交通網の整備、英語を操れる労働者の存在、効率的な行政、外資系企業誘致のための各種優遇措置等)が存在していると結論付けている。このほかにも競争力と労働力の質については、世界経済フォーラム(WEF)による“1999 Global Competitiveness Report”、あるいはBusiness Environment Risk Intelligence社による“Quality of Workforce Index”において同国は1999年の世界第1位にランキングされている。このような多国籍企業によるシンガポール進出の動きは、政府が打ち出した戦略の方向性、目標の実現可能性、政府による改革に対する意志と実績が市場から評価されたということを端的に示すバロメーターと言える。

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