2010年1月6日水曜日

結 び 21世紀における対外経済政策も、その目標に向かって挑戦していくことが求められている

結 び

 今回の通商白書は、21世紀に入って初めての白書である。また、経済産業省としても、初めての通商白書となる。この白書では、今日の我が国をめぐる環境を整理し、21世紀初頭における我が国の対外経済政策における課題を明らかにすることを試みた。まず、第1章においては、東アジアにおいて塗り替えられつつある貿易・産業構造のあり様や中国の台頭等厳しい競争環境を紹介した。これは、第2章のIT革命を背景としたビジネスのダイナミックな変貌と併せて、我が国がグローバル経済の中でどの様な位置に置かれているかを見据えることを念頭に置いている。グローバリゼーションが進む一方で、いや、むしろ進めば進むほど、経済社会の急激な変化が生じ、ひずみをもたらすことが懸念される。そうした思いから、第3章では、グローバリゼーションに対する懸念に光を当てた。環境、貧困、労働、森林減少等、グローバリゼーションに対する懸念として指摘されている問題は、いずれも深刻な問題である。これらの課題に対して、人類はますます真摯な対応を迫られている。しかし、我々は、グローバリゼーションという船から飛び降りることはできない。市場経済システムにとって代わることのできるパラダイムが存在しない今日においては、我々は、ますます加速するグローバリゼーションの中で、日本の歩むべき進路を考えていかなければならない。第4章では、こうした観点から、我が国の構造改革の問題や国際的なルール・メイキングの課題を取り上げた。この4つの章立てによって、国民一人一人が我が国の進路を考えていく際の材料と視座を提供することを企図している。

 この白書を締めくくるに際して、最後に3つの点を強調しておきたい。まず、第一に、我々が直面する問題の多くが、もはや、国内問題として閉じた形で対応することが意味をなさず、国内政策と対外政策を切り離して語ることはできなくなったことである。モノ、カネ、ヒト等の資源は、グローバルな拠点に展開し、それらが情報ネットワークで複層的に結ばれている。このような時代にあっては、対外経済交渉もかつてのように、自国の販路をいかに確保するかといった単純な国益調整の構図ではあり得なくなった。翻ってみると、近代の我が国の対外経済政策は、米国の対中貿易拡大に伴う太平洋航路確保と対日貿易等を求めた 1854年の日米和親条約及び1858年の日米修好通商条約をめぐる通商交渉から始まった。爾来、対外関係は不平等条約の改正から、日本経済の拡張に伴う通商摩擦へと、エネルギーの太宗を摩擦対応に費やしてきた。21世紀における我が国の対外経済政策は、従来の通商をめぐる利害関係調整型ではなく、第4章で考察したような、国内外のマーケットにおける建設的なルール構築型に軸足を移すことが求められている。

 第二に、我が国経済の閉塞状態からの脱却から、環境問題への対応に至るまで、我々の直面する課題は、いずれも市場メカニズムをうまく働かせるような枠組みの下で解決していく以外に手だてはない。例えば、第3章で見たとおり、外部不経済が存在する環境等の分野については、これを内部化するような仕組みが求められる。特に、地球温暖化問題等、グローバルな問題については、世界的なレベルで外部不経済を内部化するという困難な問題解決を行わなければならない。しかしながら、民主主義と市場経済という、我々が前提とする社会の基本的な枠組みの下では、それぞれの課題に携わる者のインセンティブが働く仕組みを作らなければ、決して持続可能な解決とはなり得ない。

 第三に、我々日本人の自己革新能力低下の問題である。例えば、第2章における企業のIT活用戦略の中では、ITを活用した経営革新を行うのではなく、 ITを既存の組織や業務を前提として活用しようとする傾向が強い日本企業の姿が浮き彫りになった。また、第4章では、我が国経済を取り巻く環境変化に十分なスピードで対応が図れておらず、その背景に、あまりにも長く平穏な安定成長が続いたことによって、思考方法の柔軟性が低下し、体制の硬直化を招いているとの指摘を行った。人は誰しも成功が積み重ねられるほど、今までのやり方を踏襲しようとするのが常であり、その結果、柔軟性を失いがちである。そうした意味では、成功の裏には常に衰退の要因が隠されている。無論、我が国においても、改革に向けての積極的な取組みが始められている。しかしながら、競争相手もそれ以上のスピードで絶え間なく改革を続けており、グローバル経済の下では、その速さが競われている。我々は、このような状況を十分に踏まえながら、自己革新に取り組んでいかなければならない。

 困難な経済状況から、我が国の21世紀はスタートした。しかしながら、歴史的にも我が国は、より厳しい国民的な困難を幾度となく切り抜けてきている。むしろ困難を糧としながら、再び活力ある日本を目指して取り組んでいかなければならない。21世紀における対外経済政策も、その目標に向かって挑戦していくことが求められている。

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