(2) 市場との対話の重要性
本節においては、長期にわたり低迷している日本経済が現状を克服するにあたり、先進的な経営ノウハウや技術を海外から取り入れながら我が国市場の競争を促進することが不可欠であること、更にはその手段としての対内直接投資促進の重要性と国内外における政策的な課題を整理した。ここでは最後に、対内直接投資を促進していく上での「市場との対話」の重要性について指摘を行う。
最終的に直接投資に関する意思決定を行っているのは市場参加者である。こうした市場参加者は、日本政府による各種政策を、市場に対するある種のメッセージとして捉え、投資行動を決定する際の重要なファクターとして考慮している。したがって、我が国発のメッセージが海外の投資家や企業から評価され、実際の投資行動につながらない限り、いかなる制度改革や国際的なルール・メイキングも、その効果は限定的なものとなる。例えば、国としての構造改革を断行する意志が市場に明確に伝わらない場合、あるいは国内の制度改革の方向性と国際的なルール・メイキングの場における我が国の主張が矛盾している場合、これは我が国の政策や市場の方向性に関する不確実性を生み出すことになり、対内直接投資を阻害する要因となり得る。同じ先進国である欧米諸国と比較して現在の対日直接投資の水準が極めて低いということは、各種国内制度の態様もさることながら、構造改革に対する国全体としての決意・方向性に対する信憑性・明瞭性が市場においては未だ得られていないことの裏返しであるとも言えよう。したがって、我が国が対内直接投資を促進していく際には、以下の二点に留意しながら市場との対話を行っていく必要がある。
第一に、今後海外からの資本・人材・技術の流入を促進するためには、海外からの自由化要求に基づく「摩擦対応型市場開放」ではなく、我が国の自らの意志と創意工夫に基づく革新的な制度改革を迅速に実施していく必要がある。
第二に、国内制度改革と国際的なルール構築という2つの政策手段はどちらも投資家が意思決定を行うための判断材料となり得る。したがって、国内改革と対外経済政策を一体のものと捉えながら政策運営を行うことにより、市場に対して効率的にメッセージを発信し、両者の相乗効果を最大化していく必要がある。例えば急激な高度成長を遂げたシンガポールにおいては、国内経済政策と対外経済政策の一体化のみならず、市場との対話を常に重視することで対内直接投資を促進し、アジアのハブとしての機能を獲得することに成功してきている(コラム9参照)。このように各国は世界中からモノ、カネ、ヒト、あるいは先進的な技術やノウハウを集積させるために対内直接投資を戦略的に促進している。我が国においても、将来の経済産業構造の変化、あるいは国際分業体制における我が国の将来像を考慮した上で、市場との対話を行いながら対内直接投資を促進していく必要があろう。
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