2010年1月6日水曜日

(3) 地域的なフォーラムの活用(APEC、東アジア、ASEM)

(3) 地域的なフォーラムの活用(APEC、東アジア、ASEM)

1)アジア太平洋経済協力(APEC)
 1989年に12か国で発足したアジア太平洋経済協力(APEC)の参加国は、現在21のエコノミーにまで拡大している。APECは他の地域統合とは異なり、参加国の自主性を重んじ、域外に対しても貿易投資の自由化の成果を均てんするという「開かれた地域主義(open regionalism)」を標榜している。こうした考え方に基づき、1994年の第2回首脳会議において採択されたボゴール宣言(注264)に続き、1995年には大阪行動指針が、1996年にはマニラ行動計画が採択され、APECは各種のビジョンを具体的な行動へと移す段階に入っている。
 2000年にブルネイにおいて行われた閣僚会議、首脳会議の成果としては、主に次の2点が挙げられる。第一の成果は、2001年中にWTOの新ラウンドを立ち上げることを確認するとともに、WTOに対する信頼を醸成するために途上国に対するキャパシティ・ビルディングのための協力を開始する等、APEC としてWTO新ラウンドを支える姿勢を明確に示したことである(注265)。第二の成果は、ニュー・エコノミー、電子商取引、経済法制度整備、中小企業・新規事業支援等の分野で、経済環境の変化に対応しながら構造改革を図るための具体的な協力活動路線を確立したことである。ともするとAPECの活動はこれまで理念先行型であったが、近年の協力の具体化は、発足から10年余を経過したAPECの成熟を示すものであろう(注266)。
 前述のとおり、WTOの場において自由化交渉を実施し、貿易関連ルールを拘束的なものとして定着させるためには相当の時間を要する。したがって、我が国としては、アジア諸国に加え米州諸国等も広く参加しており、各専門分野の検討を行う委員会体制が構築されているAPECという非拘束的な組織において自由化や原則の設定を行い、地域内で統一された制度を早期に定着させていくためのフォーラムとして柔軟に活用していくことも有効であろう。

2)東アジア(ASEAN+3、日ASEAN)
 (ASEAN+3)
 日中韓ASEAN首脳会議(ASEAN+3首脳会議)は、1997年のASEAN首脳会議の際にASEAN側が日本、中国、韓国の首脳を招待して初めて開催され、それ以降毎年開催されている。1999年には、日中韓ASEAN首脳会議として初めて「東アジアにおける協力に関する共同声明」を採択し、 2000年からは首脳会議以外にも外務大臣会合、経済大臣会合、大蔵大臣会合が毎年開催されることとなった。
 2000年11月のASEAN+3首脳会議においても、東アジアにおける地域協力の強化が主要な議題となり、森総理大臣(当時)からは、東アジアにおける協力の原則として、1)パートナーシップの構築、2)開かれた地域協力、3)将来の方向性としての政治・安全保障も含む包括的な対話と協力の3点が提唱された。加えて森総理大臣(当時)は、IT分野について、「東アジア産官学合同会議」の開催、及び日中韓ASEAN経済大臣会合(AEM(注267)+3)で賛同を得たアジア共通のIT技術者評価基準構築に向けた支援(注268)を表明、また金融分野においては、チェンマイ・イニシアティブ(注269)として合意された通貨スワップの取決め等の基本原則を評価し、ASEAN事務局に対して域内金融協力強化のための資金協力を行う考えを表明した。このほか、同首脳会議において、将来的にASEAN+3首脳会議を「東アジア・サミット」として開催すること、「東アジア自由貿易投資地域の形成」へ向けた研究の実施についての提案もなされ、これらの点を含めて東アジアにおける協力の具体的あり方について、金大中韓国大統領より提案のあった「東アジア・スタディ・グループ(East Asia Study Group)」において中長期的な観点からも検討を行うことで合意された。
 2000年5月及び10月に開催されたAEM+3においては、東アジアにおける経済分野での協力の基本方針として、貿易・投資、IT、中小企業の3分野に重点を置くことに合意するとともに、WTO新ラウンドを始めとする国際的な経済問題に関する意見交換がなされた。こうした議論を受け、2001年1月にマレイシア・クアラルンプールにおいて、WTO新ラウンドに向けたアジェンダへの理解促進を目的とした「WTO教育セッション」が開催された。

 (日ASEAN)
 日ASEANの間の経済分野における取組みの1つとして、1992年から日ASEAN経済大臣会合(AEM-MITI)(注270)がおおむね毎年開催されている。また1994年には、インドシナ諸国及びミャンマーのASEAN加盟促進支援を目的とした産業協力のための官民ワーキンググループ(注271)の設立を提唱する等、我が国はこの地域における協力を積極的に推進してきた。1997年にラオス及びミャンマーがASEANに加盟したこと、並びにアジア通貨危機の際に日ASEANの経済関係の深化・拡大が改めて認識されたことを受け、AEM-MITIの下に日ASEAN経済産業協力委員会(注272)(AMEICC(注273)) が発足し、1998年にタイ・バンコクにおいて第1回会合が開催された。これ以降、AMEICCの枠組みの下では、自動車、家電、化学等主要セクターにおける官民対話の実施や、人材育成、中小企業・裾野産業支援、メコン河流域の西東回廊開発のためのワーキンググループの設立、特許分野、標準・認証分野における意見交換・協力等、広範な範囲にわたる協力がなされている。
 ASEAN+3、日ASEAN等の様々なフォーラムにおける活動を通じ、今後我が国が東アジアにおける対話や協力関係を幅広いレベルで積み重ねていくことは、経済の相互依存関係が深化している東アジア地域における貿易投資の一層の拡大・円滑化、及びアジア諸国との経済関係強化の観点からも有用であろう。

3)アジア欧州会合(ASEM)
 1996年3月にタイ・バンコクにおいて第1回首脳会合が開催されたアジア欧州会合(ASEM)は、アジアと欧州の相互交流の促進及び発展を図ることを目的としており、両地域は対等な立場で経済、政治、文化面に関する包括的な対話と協力活動を行っている。
 経済分野については、1997年9月に我が国で開催された第1回経済閣僚会合において、貿易円滑化行動計画(TFAP)(注274)、及び投資促進行動計画(IPAP)を2本柱とする枠組みが合意された。1998年4月にイギリス・ロンドンで開催された第2回首脳会合では、「アジア欧州協力枠組み」が採択され、ASEM活動の具体的な進め方が規定された。また1999年10月にドイツ・ベルリンで開催された第2回経済閣僚会合においては、TFAPの優先7分野、及び各国によりリスト化された「対内直接投資促進のための最も効果的な施策9項目」について自主的に講じた改善措置を毎年報告し合う新たなアプローチの導入が決定された。2000年9月に韓国・ソウルで開催された第3回首脳会合では、経済閣僚会合、外相会合、財務相会合の開催頻度が2年に1度から各年開催に変更されており、本年秋にはヴィエトナムで第3回経済閣僚会合が開催される予定である。
 このように、ASEMの各閣僚会合の体制は近年強化されつつあるが、例えばAPECと比較した場合、1)事務局が設置されていない(調整団が連絡・調整を行う)、2)個別問題に対応して設置された会議等の開催数が少ない、等の違いがある。欧州統合が進展する一方で、アジアの中でもASEAN+3、日 ASEAN等の協力の枠組みが構築されつつある現在、アジアと欧州の橋渡しをするASEMの重要性は高まっており、今後、ASEMの更なる活動の充実が期待されている。

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