(3) 広域環境問題への対応
越境型汚染や地球環境問題が深刻化するにつれ、地域レベルでの環境協力、世界全体での環境負荷低減努力が重要性を増している。越境型環境問題については、地域環境協力に参加する国々の政治的・経済的多様性がある中でどのように協力関係を深化させていくか、他方、地球環境問題については、先進国と途上国の地球環境問題に対する認識の差や先進国間の利害関係をいかに調整していくかが課題となっている。
1)越境型汚染問題
越境型汚染(酸性雨、海洋汚染等)の問題が深刻さを増す中で、東アジア(注95)においても地域環境協力の重要性が高まっている。東アジアに限らず、地域環境協力が推進される背景としては、1)越境大気汚染、海洋汚染、有害廃棄物の越境移動等の解決・防止には国境を越えた協力が不可欠であること、2)天然資源管理や環境悪化防止に取り組むには「地域単位」の方が合理的である(「全世界」では広すぎ、「一国単位」では対処できない)こと、3)地域統合形成により共通の環境政策・基準を策定する必要性が生じたこと、等が指摘されている(注96)。
現在、東アジア全体として環境問題全般を取り扱う枠組みはない。これは、東アジアの政治的・経済的多様性から、国連環境計画(UNEP)等の国際機関が北東アジア、東南アジアといった小地域レベルでの環境協力を進めてきたためである(注97)。少し範囲を広げてアジア太平洋地域を対象とすれば、エコ・アジア(1991年から実施されている環境大臣の政策対話)、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(科学者の国際共同研究を推進)がある。また、APECでは、1994年に発表されたAPEC環境ビジョンを受けて、環境ワークプログラムが策定されている。
個別の環境問題への協力については、日本の提唱により構築された東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET: Acid Deposition Monitoring Network in East Asia)が挙げられる(注98)。EANETは、東アジア各国が酸性雨問題に関する共通の理解を形成し、酸性雨の人の健康及び環境への影響を未然に防止するための基盤整備に取り組むことを目的として、2001年1月より本格的な稼働を開始している(試行稼働期間に引き続き、10か国(注99)が参加)。このほかにアジア太平洋地域、北東アジア地域における取組みに、生物多様性保全を推進する「アジア太平洋地域渡り性水鳥保全戦略」(注100)、日本海、黄海の海洋環境保全を目的とした「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」(注101)等がある。
このように、東アジアにおける地域環境協力は国際機関等の枠組みによるものを除けば、まだ緒に就いたばかりと言える。また、域内諸国の経済レベルや政治体制が多様であることから、欧州のように統一的な環境政策を導入するには課題が多い。
2)地球環境問題
1972年に開催された国連人間環境会議(ストックホルム会議)以降、国際フォーラムにおいて開発と環境をめぐる問題は何度となく取り上げられてきた。しかし、先進国と途上国の立場の違い、先進国間における規制的手法重視か企業の自主性尊重かという立場の違い等から、国際的合意の形成は容易ではない。
近年関心を集めている地球温暖化問題を例に挙げれば、1997年のCOP3で合意した温室効果ガスの排出量削減目標を、先進国がどのように実施していくかをめぐって交渉が続いている。温暖化対策を講じるに当たり、京都メカニズム(排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズム)の具体化、不遵守時の措置、吸収源、途上国の参加、技術移転(先進国・途上国の役割分担、新たな資金メカニズムの構築等)等、解決していかなければならない課題は多い。途上国は、海面上昇による深刻な被害が懸念される一部の国を除けば、概して温暖化問題への関心が低く、本件に関しては、温暖化問題の原因を作った先進国がまず自らの責任を果たすべきであるとの考えが強い(注102)。しかしながら、今後、途上国の工業化や人口増加が進むことを考えれば、先進国だけで温室効果ガスの排出削減を行うことには限界がある。第3―3―22図 は、IEAが2020年までのOECD加盟国と途上国のエネルギー消費量及び二酸化炭素(CO2)排出量を予測したものである。1971年には最終エネルギー消費、CO2排出量ともOECD諸国が全体の3分の2程度を排出していたが、1997年になると、CO2排出量ではOECD諸国と途上国の割合はほぼ拮抗するまでになっている。さらに、2020年には、最終エネルギー消費、CO2排出量の双方で、両者の割合は逆転するものと予測されている。
地球温暖化が途上国に与える影響については、2001年2月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第三次評価報告書・第2作業部会報告書(注103)(政策担当者向け要約)において、1)気候変動への適応力は、各国・地域の経済力・技術・教育・情報・インフラストラクチャー等の諸条件により決まるものであり、概して途上国は適応力が小さく、脆弱性が大きいこと、2)平均気温の上昇により、多くの途上国ではネットの経済的損失が生じ、温暖化の程度が大きくなるほどこの損失も増大すること、3)気候変動の影響は、途上国(特に一次産品依存度が高い国)において最も大きくなると予想されること、等が指摘されている。また、同報告書では、気候変動に対する自然及び人間システムの感受性、適応力、脆弱性の定量的評価といった研究上の諸課題に加えて、途上国向けのモニタリング、評価及びデータ収集、教育・訓練を含めた、気候変動の地域的影響、脆弱性の評価、及び適応のための国際協力・協働の強化が特に必要であると結論づけている。前述のとおり、京都議定書をめぐる様々な論点について交渉が行われているが、先進国のみならず、途上国においても温室効果ガスの排出量を効果的に削減していくための枠組みを作っていくことが、温暖化対策の実効性を高める上で非常に重要である。
第3―3―22図 2020年までの最終エネルギー消費及びCO2排出量
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