1.これまでのルール・メイキングの進展
(1) 第二次世界大戦以前の国際的ルール・メイキング~基本的な経済活動の円滑化
19世紀半ばから、欧州を中心に、国境を越える経済活動が活発化し、科学技術が飛躍的に進歩するに伴い、多数国間での共通のルール・メイキングが行われるようになった。ただし、この時期は、非常に限定された分野、かつ限定された地域内での制度のハーモナイゼーションであった。
例えば、19世紀半ばにライン河やダニューブ河等、複数国の領域を貫流する河川の航行の自由を認める国際河川委員会が設置された。19世紀後半には、欧米諸国を単一の郵便境域とする一般郵便連合が設立され、続いて普遍的な国際組織として万国郵便連合(UPU:Union Postal Universelle)として制度化された(注158)。郵便と並んで国境を越えた情報流通の主要な手段であった電気通信制度についても、20世紀前半に、電気通信業務の能率増進と技術的手段の発展を図ることを目的に国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)が設立された(注159)。国際貿易の円滑化、促進のための標準化の分野では、まず電気技術の分野について、1906年に国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)が設立され、電気技術以外の分野に関しては、1928年に万国規格統一協会(ISA:International Federation of the National Standardizing Associations)が設立された(注160)。また、知的財産権の分野においても、1873年のウィーン万国博覧会をきっかけに、欧州を中心に工業所有権に関する国際的な保護ルールが検討され、パリ条約が制定される等、欧州を中心にルール・メイキングが行われた(注161)。ただしその内容は、内国民待遇や優先権の原則といった原則的な内容にとどまっている。
このように、19世紀半ばに始まる国際的なルール・メイキングは、当初、交通や郵便、通信、度量衡といった国境を越える経済活動を円滑に進めるための基礎となるような制度に関するものがほとんどであり、かつ、これらは欧州を中心とした先進国間という極めて限定された範囲でのルール・メイキングであった。
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