2010年1月5日火曜日

「技術・経営ノウハウの拡散 (スピルオーバー)効果」

コラム8

【直接投資による技術・経営ノウハウの波及効果】

 海外直接投資が投資受入国に与えるプラスの効果としては、雇用の創出、裾野産業の発展、あるいは競争の促進等多くの指摘がなされている。しかしながら、その中でも特に注目される効果は、進出企業が保有する先進的な技術や経営ノウハウが受入国に移転され、国内に波及するという「技術・経営ノウハウの拡散 (スピルオーバー)効果」である。技術の拡散効果とは、海外の技術者や経営者が保有する先進的な技術やノウハウが流入することにより、投資受入国内の研究開発が刺激され、生産性の上昇や競争力の増大につながることである。こうした技術の拡散効果の大きさは、受入国がどの程度技術を吸収する能力を持っているかに強く依存している。高度な技術やノウハウに接する機会があっても、現地企業や現地労働者がその技術を吸収する力がなければ、技術知識は現地法人内にとどまるのみで受入国内に広まらない。したがって、直接投資による技術波及効果は教育水準が高く、熟練労働者が多く存在する先進国においてより重要であると考えられる。
  Branstetter(2000)(注122)は、日本企業の対米直接投資データを用いることにより、直接投資による技術知識の拡散効果に関する実証研究を行った(注123)。当分析は日本企業(投資国)から米国(受入国)への技術の波及効果の存在を支持する結果となっており、特に、企業の進出目的が現地での製造を主とするケースよりも、研究開発であるケースにおいてその効果が大きくなる傾向があることが示されている。さらに、進出した日本企業に対する米国からの拡散効果の存在も確認されており、技術の波及は、進出企業から受入国に一方的にもたらされるのではなく、双方向に存在することが示されている。
一般的に、直接投資は1)現地法人に対して財・サービスを供給する現地企業に対する技術指導、2)現地法人に雇用されている労働者の技術習得、といった経路により受入国に対して技術の拡散をもたらす。直接投資のほかにも、1)輸入財に体化された技術を分解して解析を行う「リバース・エンジニアリング」や、 2)国内企業が外国企業と技術のライセンス契約を結ぶこと等によっても海外より技術を輸入することは可能であるが、企業内部の技術移転である直接投資は、文書化しにくい経営手法や知識をも移転することができるという点において、他の経路よりも優れていると言えよう(注124)。

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