(5) 21世紀における対外経済政策の挑戦
以上、我が国の対外経済政策を取り巻く環境、そして重層的対外経済政策を展開することの必要性についての整理を行った。以下では、重層的な対外経済政策の効果を最大化する上で不可欠な条件について考察を行う。
1)WTO協定との整合性確保
我が国が重層的対外経済政策を推進していく際の第一の挑戦は、地域や二国間で協定を締結していく際にWTOとの法的整合性を担保することである。特定国に対してのみ関税・非関税障壁を引き下げるFTAは、最恵国待遇(MFN)原則の例外としてWTO協定上認められている。これはFTAによる貿易自由化が世界的に進展することにより、結果として世界貿易の拡大に資するとの考えに基づいているが、他方、MFN原則の空洞化を防ぐために、
FTAを締結する加盟国に対して一定の要件を課している。例えばモノの分野についてはGATT第24条において、1)FTA締結国間の実質上すべての貿易について関税及びその他の制限的通商規則を廃止すること、2)廃止のための移行期間は原則10年を超えるべきでないこと(注281)、3)域外国に対する関税その他の通商規則をより高度または制限的なものにしてはならないことが要件として定められているほか、サービスの分野においてもGATS第5条において同種の規定がなされている(第4―3―30表 )。
WTOが提供する多角的な貿易秩序の恩恵を我が国が今後とも享受し続けるためにも、あるいは我が国の国際的な信用を維持するためにも、二国間、あるいは地域レベルでEPA等を締結する際にはWTO協定との整合性を確保することが不可欠である。また、重層的な対外経済政策の効果を最大化するためには、 WTO協定との整合性を確保するのみならず、以下で述べる2)、3)の条件を同時に満たしていくことが必要となる。
2)迅速な交渉の実施
近年、FTAの交渉スピードは加速しており、2000年に開始された交渉のうち少なくとも3つの協定は約5か月で調印に至っている(第4―3―31表 )。こうした交渉スピードの加速は、通商ルールのデファクト・スタンダードの獲得、あるいは地域貿易投資拠点の形成といった先行者の利益を得る上で不可欠な要素の1つであろう。また、著しく変化している技術や消費者ニーズに適合した協定を策定する上でも、交渉の迅速性は欠かせない。したがって、我が国が重層的対外経済政策を推進する際の第二の挑戦は、EPAや二国間投資協定等の交渉の迅速性を確保するということである。
上記に述べた「WTO協定との整合性確保」と「迅速な交渉」という2つの条件を同時に満たすことは極めて困難であるが、WTOの信頼性を維持しながら閉塞状態にある国内経済を早急に活性化させるためには、いずれの条件も満たすことが必要である。
3)各フォーラム間の有機的な連携
重層的対外経済政策を推進する際の第三の挑戦としては、二国間・地域における取組みの際に、これまで我が国がWTOにおける交渉で培ってきた経験・ノウハウ・人材等各種リソースを最大限活用するとともに、二国間・地域における交渉の成果・経験をWTOの場で還元・貢献していく等、各レイヤー間で有機的な連携を確保していくことである。こうした連携は、前述の「迅速な交渉」という目標を達成する上でも不可欠な条件であろう。
第4―3―30表 WTO協定上地域統合が正当化されるための要件
第4―3―31表 主なFTAの交渉期間の比較
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