2010年2月22日月曜日

ハイチでの軍事・経済支配を続けたがるアメリカ

世界ハイチ もうひとつの見方~クーデターの裏に見えるアメリカの影


荒牧薫2004/03/14 ハイチでの軍事・経済支配の継続を図ろうとするアメリカは、アリスティード政権を崩壊に導いたのか。





 2月29日、アメリカの国務省が、突然、ハイチのアリスティード大統領の辞任を発表。その数時間後の3月1日早朝、アメリカ海兵隊はハイチに到着。また、これとほぼ時を同じくして、退役軍人が率いる反政府勢力は首都ポルトプランスを制圧した。当初、アリスティード大統領はアメリカ軍に付き添われて避難したと伝えられていたが、本人はこれを否定、アメリカ軍に身柄を拘束され、連れ去られたと主張している。もし、この言葉が正しければ、これはアメリカによるクーデターということになる。

 ハイチは世界5番目の貧困国で、国の富の50%が、人口の1%に集中しており、失業率は70%。時給15円に満たない給与で働く労働者も多くいる。主要産物の砂糖、ボーキサイト関連から、繊維、家電、玩具と国内の業種は多岐に及んでいるが、共通点は過酷な労働とアメリカ企業による支配。つまり、ハイチは、アメリカ企業にとっての「カリブ海の楽園」と言っても過言ではない。

 1804年、初の黒人国家としてフランスから独立したハイチ。しかし、外国からの干渉からは逃れることが出来ず、1915年には、治安回復を名目にアメリカ軍が侵攻を開始、占領は34年まで続いた。その後も、アメリカがデゥパリエ親子2代に渡る軍事独裁政権などを通し、間接的にハイチを支配、この支配は86年デゥパリエ大統領が政権の座を追われるまでの長期間に亘り、この間に、労働組合、共産主義者は弾圧され最低賃金は引き下げられた。加えて、この時の独裁政権と麻薬業者そしてCIAとのつながりも指摘されている。その後、短期間の、政治的混迷を経て1990年12月初めて、民主主義に乗っ取った大統領選挙が実施された。

 そしてこの選挙に、アメリカの予想に反して、67.5%の得票率を獲得して圧勝、大統領に就任したのが、元神父のアリスティード氏だった。これは、「ラバラス」という名で知られる草の根運動の勝利でもあり、この選挙でアメリカが後押した候補は14.2%の票しか取ることが出来なかった。しかし92年の9月、汚職の摘発、官僚機構の縮小、麻薬取り締まりなどで、国際的な評価を得るようになっていたアリスティード政権は、軍事クーデターによって倒される。このクーデター開始直後の2週間で「ラバラス」の支持者を中心に少なくとも一千人が殺害された。殺害を実施した民兵組織の指導者は、みなCIA関係者だったと言われており、そのひとり、エマニュエル・コンスタントは94年、ネーション誌とのインタビューで、CIAから命令され、資金も得ていたことを告白している。
地図作成:緑川綾子

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荒牧薫2004/03/14 ハイチでの軍事・経済支配を続けたがるアメリカは、アリスティード政権を崩壊に導いたのか。





 このクーデターを受け、米州機構はハイチの新政権に対し経済制裁を実施するが、アメリカは800社を制裁の対象から外すと同時に、石油などを秘密裏に新政権に供給していた。しかし、このままでは軍事政権は長続きしないと見たアメリカは、1993年アリスティード氏に対し、「大統領再選を認めない」「クーデターの際の暗殺グループに恩赦を与える」と言った内容の和平合意を軍事政権と結ぶよう強制した。しかしこの合意を軍事政権が拒否したことで、94年の7月、国連安保理はハイチへの多国籍軍の武力行使を承認、これを受けクリントン政権は、ハイチにアメリカ軍を派遣、アリスティード氏も一緒にハイチに帰国、復権した。復権の条件の中に詠われていた、IMF国際通貨基金型の「自由市場」政策や、経済改革を推し進めたことで、ハイチの経済状況は悪化し、アリスティド氏は支持率を減らすことになったが、更なる緊縮財政を求めるIMFや債権国からの圧力には屈しなかった。

 そして、2000年、アリスティード氏は、大統領選挙で、4分の3の票を獲得し、アメリカの押す対立候補に圧勝した。しかし「選挙は公正だった」と国際選挙監視団が報告しているにもかかわらず、アメリカは選挙に不正があったと主張、ハイチに対する援助の阻止を開始した。またそれと同時に、91年のクーデター勢力を含む反アリスティード派に、武器と資金の供給も始めた。こうして今年の2月、ドミニカ共和国から、フィリッペ、チャンブレイン司令官などが率いる反乱勢力が、アメリカの後押しを受け、ハイチに侵攻を開始。そしてハイチ国内の反乱勢力と合流、首都制圧に至る。

 こうした背景を考えると、絶対に辞任しないと主張していたアリスティード大統領の突然の辞任は、アリスティード氏本人の言うように、アメリカ軍に身柄を拘束されたことによるものとの見方の方が、うまく状況に当てはまるように思える。そして、そのアメリカは、今、石油利権を狙って、ベネズエラのチャベス政権打倒を目指している。アフガニスタン、イラク、ハイチそしてベネズエラと、アメリカの野望はとどまるところを知らない。

【参考記事】

Haiti: Washington was behind “coup” says Aristide(Green Left Weekly /3月10日)

U.S. Sponsored Regime Change in Haiti(World War 3/3月1日)

The Tragedy of Haiti(South End Press/1993)

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